それもそのはず、この装丁デザインは、装丁作家の泉沢光雄と人形作家の大野季楽という夢のコラボレーションで実現した奇跡の逸品なのだ。
泉沢光雄は、綿矢りさ、浅田次郎、東野圭吾、北方健三、高杉良、笹本稜平、花村満月、藤沢周平、村山由佳、志水辰夫、垣根涼介、朱川湊人、唯川恵 他多数の有名作品を手がけ、芥川賞・直木賞始め主要文学賞受賞作品・ベストセラー作品の装丁を飾り、装丁作家・グラフィックデザイナーとして常に時代の最先端を疾走している。
2003年には、三上洸のデビュー作『アリスの夜』の装丁を手がけ、その耽美と残酷の相半ばする特異な作品世界を見事に視覚化した。三上洸の作品世界をもっとも早くから理解している人物である。
大野季楽は、1974年、集英社少女漫画誌で最優秀新人賞を獲得し少女漫画家としてデビュー、さらに大手企業の広告・CM・イラストレーションをも手がけるいう多彩なキャリアを持つ。94年には堀佳子に師事して人形制作を開始、96年には橋姫に師事してビスクドールの制作を本格的に開始した。
大野季楽の制作する危ういまでに美しい人形たちはKIRA DOLLと呼ばれ、芸術的に極めて高い評価を受けている。02年、写真家リウ・ミセキによる写真集撮影のためにビスクドールの故郷、フランスに渡ったKIRA DOLLたちは「どうして日本人がこれ(我々のビスクドール)を、ここまで完成させることができるのか」とパリの人々を驚嘆させた。大野季楽が世界でも屈指の人形作家であることを象徴するエピソードである。
今回の『マリアの月』装丁制作にあたっては、大野季楽自らが撮影も担当し、その多才ぶりを発揮していることも特筆すべき点だ。三上作品を手がけるのは二度目となる泉沢光雄も、前作との共通要素を残しつつ、新たにKIRA DOLLという最高の素材を得て、さらに作品世界との一体感を高めることに成功している。
二人の鬼才によって生み出された、最高の美術作品と言えるこの装丁は、もはや『マリアの月』の作品世界を構成する重要な一部となって切り離せない。工業製品のように粗製濫造される無機質な本が氾濫する中、蔵書の喜びを感じさせてくれる今や貴重な一冊である。
(敬称略)




